マイクロ流体技術を利用した緑内障治療用インプラントデバイスの開発

医療分野におけるマイクロ流体デバイスの活用

2017

概要

眼球の中には、酸素や栄養を運んだり、老廃物を眼外に排出したりする房水という液体が循環しているが、その房水の流れが何らかの要因で阻害されると眼圧が上昇し、その結果、視神経が圧迫されて損傷し、徐々に視野が狭くなって最後は失明することがある。これが緑内障と呼ばれる眼の病気である。緑内障の治療方法の一つに、インプラントデバイスを眼内に埋め込むことで眼圧を上がりすぎないように調整する治療法がある。この緑内障治療用インプラントデバイスはすでにいくつか実用化され、臨床応用もされているが、それらはいずれも分厚くて硬いため、術後に結膜を突き破る等の危険性があり、炎症を引き起こしたり、審美性を損たりする要因となっている。そこでわれわれのグループでは、マイクロ流体技術を用いた新しい柔軟シート型緑内障治療インプラントデバイスの開発を行っている。

マイクロ流体緑内障治療デバイスのプロトタイプ

現在、フォトリソグラフィー技術と、インプラント用シリコーンゴムによる型取り技術を利用して、小さく薄く柔らかいインプラントデバイスを試作している。シートと流路を張り合わせるときに一部分だけ接着しないようにすることでマイクロバルブを実現し、ある圧力以上になるとバルブが開いて圧力を下げることができる圧力調整機構を実装した。この薄いシート状で柔軟なデバイスを眼球モデル実験システムに装着して圧力制御性を試験した結果、ある圧力しきい値でバルブが開き、内部圧力を一定値以下に維持できることが実証された。さらに、動物の生体から取り出した眼球(豚眼試料)に試作デバイスを埋め込み、卓上で眼圧調整機能を試験した。その結果、緑内障を引き起こす一定圧力以上に上昇したときに眼球内から液体が排出され、眼圧が正常圧力範囲に保たれることが確認できた。

動物眼球試料を用いた試作インプラントデバイスの実証実験の様子

共同研究

  • 東京大学医学部附属病院 眼科視覚矯正科

研究予算

  • 日本学術振興会 科研費
  • 文部科学省 橋渡し研究加速ネットワークプログラム